エクセター公の娘

ロンドン塔には2人の娘がいました。その片割れが、このエクセター公の娘(Duke of Exeter’s daughter)と呼ばれる拷問具です。
一般的にラックと呼ばれる拷問具の中で、イギリスのロンドン塔で使われたものを特にこの名前で呼びます。

ちなみに、もう片方のスカベンジャーの娘についても記事があるので、気になる人はこちらもどうぞ。

 

形状と使用方法

エクスター公の娘とは、木製の台に、両手両足を縛るロープとそれを引っぱるためのクランクのような巻き上げ機がついている拷問具です。

この拷問具は様々な国で改良されることがありましたが、その本質が犠牲者の体を引き伸ばす拷問であることは共通しています。

この拷問具の使用方法はいたってシンプルです。まず、台に寝かせた犠牲者の両手と両足をそれぞれロープで縛って拘束します。次に、そのロープを巻き上げ機で巻き上げます。このとき、巻き上げ機には歯車のようなものがついており、長い棒をてこの原理の要領で使うことで簡単に巻き上げることができました。たったこれだけで、犠牲者は激痛に苦しむことになります。

この拷問にかけられた犠牲者は、縛られた両手足を引き伸ばされることになります。限界まで手足を引き伸ばされた犠牲者は、全く身動き出来なくなってしまったでしょう。ですが、ただ動けなくするだけならこんな大掛かりな装置は必要ありません。手枷と足枷を付ければ良いだけですからね。この拷問具の真骨頂は手足を限界まで引き伸ばすことではなく、手足を限界以上に引き伸ばすことでした

限界まで手足が伸び切った犠牲者が更に引っ張られるとどうなるか? いきなり手足が千切れるなんてことはありません。それよりもまず最も弱い部分、つまり関節が外れます。場所で言えば、肩や肘の関節はまず外れたでしょうね。さらには膝の関節や、かなり外れにくいですが股関節も外れたでしょうね。そしてこれらの関節が全て外れ、これ以上伸ばせば千切れるかもしれないという場所まで来てはじめてこの拷問が始まります。ここまではまだ準備段階ですよ。もちろん、この時点で自白していた犠牲者も多かったでしょうが。

脱臼したことがあればわかると思いますが、関節が外れるというのはかなりの激痛です。何もしなくとも全身を痛みが襲いますが、この状態で体を動かせばさらに痛くなるのは目に見えていますよね。当時の拷問官たちが、この状態を利用しないわけがありません。

関節が外れ、全身が伸びきった状態の犠牲者を待ち受けているのは、他の拷問具による拷問でした。例えば、熱した鉄の棒ろうそくの火を近づける、ペンチのような器具で指やつま先を引き裂く、などの拷問はよく行われていたようです。当然、そんなことをされれば身をよじることになるでしょう。が、全身はすでに関節を外されて拘束されています。この状態ではろくに動けませんし、動くとその刺激が外れた関節に激痛を引き起こすことになります。こうやってみると、人に苦痛を与える方法としてかなり合理的ですね。

また、この拷問具の便利な点は、引き延ばし具合を自在に調節し、また固定できる点にあります。拷問官のさじ加減によっては、何日にもわたって拷問を加えることが可能だったでしょう。

ちなみに、人間の関節は引っ張る方向に対して強くありません。筋肉で抵抗することができないからです。そのため、たとえ体を鍛えている犠牲者であっても、拷問官は苦も無く関節を外せたでしょう。

歴史

この拷問具は2代目エクセター公爵、ジョン・ホーランド(John Holland)によって作られました。エクセター公が作ったからエクセター公の娘というわけです。拷問具を製作者の娘と呼ぶのは、同じくロンドン塔で利用された拷問具であるスカベンジャーの娘を思い出しますね。どちらも作成された時期が近いので、当時のイギリスではこのような命名が流行っていたのかもしれません。

エクセター公の娘は中世イギリスで開発された拷問具ですが、引っ張ることで犠牲者を拷問するという方法は古代ローマでも行われていました。暴君と名高い皇帝ネロの時代に、皇帝を暗殺しようとした女性に共犯者を自白させるためにこの拷問が行われたという記録があります。その女性は四肢の関節が全て外れ、椅子に座ることができなくなったと記録されています。

古代に行われていた拷問がエクセター公の娘の起源になったのか、もしくはエクセター公爵が偶然似たような拷問を思いついただけなのかは分かりませんが、長い期間に渡って利用されるほどこの拷問方法が効果的だったことは確かでしょう。

また、この拷問具はイギリス以外でも改良され利用されました。例えばフランスでは台に棘をつけて犠牲者の背中を傷つけるようになりましたし、スペインでは縦にして吊り下げることで犠牲者の自重を使って関節にダメージを与えました。しかもその際、腕を後ろで縛ることでより効果的に方の関節を破壊することができるようになっていたというのですから犠牲者の苦しみも大きかったでしょう。

ちなみに、この拷問具で拷問されることを当時はエクセター公の娘と結婚すると言ったそうですよ。ブラックな皮肉っぷりがまさにイギリスですね。

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