ガロット

拷問具の中には、その殺傷能力の高さの故に処刑具としても利用されたものがいくつかありました。
今回紹介するガロット(Garrote)も、そんな拷問具の1つです。

形状と使用方法

ガロットとは、座高を測る椅子のような形をした台とそこに取り付けられた首を絞めつけるための鉄製の金具、そしてその鉄輪を締めるためのハンドルから構成された装置です。台には、金具を通すために首の位置に穴が開けられていました。

この拷問具は後世になると改良され、鉄輪を締めるためのハンドルは頸椎を貫くための尖ったネジに置き換えられます。逆に、初期のガロットでは、犠牲者の首を絞めるのは鉄製の金具ではなく縄でした。時代を経るごとに改良されていったわけですね。

ガロットを使われることになった犠牲者は、まず台に座らされることになります。ちょうど、座高を図るために椅子に座ったときのような格好になりますね。次に、首の位置に取り付けられている金具を首にはめられます。これで、犠牲者は台に固定されて立ち上がることができなくなりました。ここまでが下準備です。ちなみに、ガロットの台の中には手枷や足枷がついているものもありました。そのような場合、犠牲者はより強く拘束されて身動きできない状態になったことでしょう。

動けなくなった犠牲者に対し、執行人はハンドルを回して金具を締めることで拷問を行います。金具が締まるということは、犠牲者は首を締められた状態になるということです。このとき、犠牲者の首では気道の圧迫によって息ができなくなって窒息、頸動脈の圧迫による脳の窒息(脳虚血といいます)が起こります。どちらにせよ、窒息するということですね。

言うまでもないことですが、息が出来なくなるというのは苦しいことです。その苦痛から逃れたければ自白しろというわけですね。息が出来ないという苦痛は、否が応でも死を意識してしまう苦痛です。生命を脅かされるという恐怖は、苦痛そのものよりも大きな自白効果を生み出したことでしょう。

ただしこちらの方法では、たとえ死んでも自分の意志を貫くという強い意志を持った犠牲者に死の恐怖という苦痛だけで自白させることは難しかったでしょう。そこで、なかなか自白しない犠牲者に対して執行人は意思の力を奪う必要が出てきます。具体的にどうするのか? 実は、答えはこの拷問を続けるだけです。

息が出来なくなる状態が続くと、体の中にある酸素が少なくなる状態、つまり低酸素状態になります。これは普段の生活でも感じることが出来ると思いますが、激しい運動の後などで息が切れている状態のときに考え事をするのって難しく感じませんか? むしろ、なにも考えたくないと感じるとも思います。もっと激しい運動を無理やりしていると、意識が薄れたり、最悪意識がなくなってしまうということもあるでしょう。これは脳に十分な酸素が届いていないために起こる現象です。強制的に息が出来なくさせることで、ガロットではこの低酸素状態を強制的に作り出すことが出来ます。息が出来なくて意識がもうろうとしているときに、執行人に何か問いかけられたら……うっかり思ってもいないことを口走ってしまうかもしれませんね。というより、異端審問で使われていたくらいですから実際口走ることになったのでしょう。

また、ガロットは犠牲者を拘束することが出来るという性質から、鞭打ちなどのほかの拷問と併用されたこともあるようです。

歴史

この拷問具は中世のスペインで主に使われました。同じ時代では、他にもフランスポルトガルでの使用履歴もあるようです。
異端審問では、異端である犠牲者を正統なキリスト教の教えに改宗させる必要がありましたから、思考を奪うこの拷問具は都合が良かったのでしょう。

とは言え、残念なことにこの拷問具はあまり優秀ではありませんでした。理由は単純で、余りにも強力すぎたからです。
首という人体の急所を責めるこの拷問具は、しばしば犠牲者の自白を引き出す前に死なせてしまうことがありました。
呼吸できないように首を絞めている間は常に首に負荷がかかっている状態ですからね。何度も繰り返していれば頸椎に損傷を与えてしまいます。

なので、この拷問具は処刑具としてもよく利用されました。
皮肉なことに、処刑具としてのガロットは随分と優秀だったようで、様々な地域で長い期間使われています。
最近だと、第二次世界大戦での処刑20世紀のアメリカやスペインでも使われていました。物凄く最近のことですね。

ちなみに、この処刑用のガロットでは鉄の金具部分が改良され、ハンドルを回すことで金具が閉まる代わりにネジが進むようになりました。
これにより、首を絞めるのではなく頸椎を直接貫いて処刑することになります。

想像するのも恐ろしいですが、改良されたということは金具を締めるタイプよりもこちらの方が早く楽になれるのかもしれません。
ただし、このネジが進むタイプのガロットでは、ネジが口から飛び出すほど進んでいるのにまだ生きている犠牲者がいたという記録もあり、なんとも苦しい気持ちになります。

余談ですが、異端審問や魔女狩りでは、自分の罪を認めた犠牲者は絞首刑に処されてから火刑にされるという決まりがありました。
これは、生きたまま火にかけられると壮絶な苦しみを味わうことになるので、せめてもの慈悲として行われていた処置です。

この絞首刑というのは、実はガロットのことです。火刑に処すための木の杭に穴をあけ、そこから縄を通して首を絞めるわけですね。
ただし、この縄を使う方法では執行人の腕力がなかり強くなければ犠牲者を死なせることが出来なかったらしく、よく知られる鉄の金具を使うガロットへと改良されることになりました。

上の画像では、梯子に乗った処刑人がガロットで女性の首を絞めようとしています。

こんな不安定な足場で、人間の首を締めきれるほどの力が出せるのでしょうか。
生きたまま火炙りにされるよりマシとは言え、慈悲というには苦しすぎるように感じてしまいます。

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