親指つぶし器

人間に苦痛を与える手段と言えば、どんなものを想像するでしょうか。

鞭で叩く。刃物で切り裂く。骨を砕く。動物に責めさせる。火で焼く。水に沈める。熱で炙る。煙でむせさせる。冷気で凍えさせる。性的虐待。宗教的タブーを犯させて心理的ストレスを与える。汚物などで生理的嫌悪感を煽る……などなど。
現代であれば、電気による通電も選択肢の一つとなるでしょう。

手段はいろいろと考えられますが、「ただ苦痛を与えるだけ」ならば、「親指を万力で挟み締め付ける」だけでも十分な成果が得られます。

親指つぶし器(Thumbscrew, Thumbkin)は、ただ親指を絞めつけて苦痛を与えるというシンプルな、だからこそ恐ろしい拷問具です。

形状と使用方法

親指つぶし器は2枚の棒状の鉄片と、それらの両端に挿入されたネジを切った支柱によって構成されています。支柱の片方にはハンドルがついており、回すことで支柱が下がって鉄片同士が締まるようになっていました。また、支柱が3本あるタイプの親指つぶし器も存在するのですが、その場合は真ん中の支柱にハンドルがついていたようです。

ちなみに、拷問具としての機能には関係ありませんが、手を拘束できるという性質を生かして手錠のように使われることもあったそうです。その際には、この拷問具に紐をつけて犠牲者を引っ張って連行できるようにしていました。

使い方はいたってシンプルで、犠牲者の両手の親指をこの拷問具の鉄片の間に差し込ませ、ハンドルを回すだけです。そうすると、ネジが進むにつれて鉄片が締まり、親指が圧迫されることになります。この締め付けが生半可なものではなく、血流は止まり、骨が砕け、しまいには親指が完全に潰れて破壊されてしまいました。名前の通り、この拷問具は親指をつぶす器械なわけです。現代ならいざ知らず、中世の医療技術ではつぶれた親指を治すことはできなかったでしょうね。

とは言え、刑罰として指を潰すのならばいざ知らず、拷問では親指を潰すことまではしなかったか、仮に行うとしてもかなり最後の段階で実行されたはずです。指を潰されてから自白を促されるよりも、自白しなければ指を潰すぞと促したほうが、より自白させやすいですからね。実際、この拷問具の使用方法を説明しているバイエルン選帝侯領の刑法というものがあるのですが、この中でも親指つぶし器は指を潰すためではなく、指に苦痛を与えるように使われています。なるべく長く苦痛を与えようと考えたら、すぐに壊してしまうのはむしろ悪手になってしまうんでしょうね。

苦痛を与える方法として、十分にきつく締め付けたこの器具を叩くという方法があります。これは、限界まで圧迫された指先の神経は小さな刺激も激痛に感じてしまうという性質を利用した責めです。

他にも、強く締め付けたあとに締め付けを一旦わざと緩め、再び締め付けるという方法があります。こちらは、締め付けることによって血流が滞った指先は徐々に痛みに対して鈍感になるので、一旦緩めて血流が流れるようにすればまた強い苦痛を与えることができるという理屈に基づいています。苦痛を与えるという視点で見ると、とても理にかなった方法ですね。

ハンドルを回して指を締め付けるだけの拷問なんて単純そうに見えてしまいますが、実際には犠牲者に少しでも苦痛を与えようとする工夫が使用方法から見て取れます。

親指つぶし器はこれ単体でも十分に恐ろしい拷問を行うことができますが、実際には他の拷問具と併用されることが多かったそうです。この拷問具はサイズが小さいですし、拷問中に犠牲者の命を奪うことはまずないですからね。より危険な拷問具とも併用しやすかったのでしょう。

具体的にどんな拷問具と一緒に使われたかといえば、スペインの靴オーストリア式ラックが挙げられます。スペインの靴は足に対する拷問で、ラックは四肢の関節に対する拷問ですから、どちらも親指つぶし器とは責める場所が重なっていないことが分かります。異なる箇所を別々の拷問具で拷問されるというのは、壮絶な拷問になったでしょうね。

歴史

拷問具の中では珍しく、親指つぶし器はロシアに起源をもつ拷問具だと言われています。

1397年に、ロシアにピロウィクスと呼ばれているくるみ割り機のような形をしていた拷問具があったことが確認されています。これをロシアに亡命していたトーマス・ダリエル氏がイングランドに帰国する際に持ち帰り、国内で改良されたものが親指つぶし機だと考えられています。かなり優秀な拷問器具だったのでしょう。イギリスをはじめ、ドイツやフランスなどにも普及し、よく利用されることになりました。

ちなみに、同じ拷問具が地域によって使用方法が異なっていたり改良されていたりするというのはよくある話ですが、それがこの拷問具に関しても言えることだったようです。

例えば、ドイツではこの拷問具を使う際には犠牲者の爪をはがし、しかも拷問具の鉄片には釘を植え付けて使用していたそうです。単純に指を潰されるだけでも耐え難い苦痛ですが、こんな事をされればどれほどの痛みになるのか……想像もしたくないですね。

フランスの時の女王マリア・テレジアによって作られたテレジア法典の中では、この拷問具の使用方法が詳しく記載されています。記載されているのですが、私には読めなかったので翻訳できた人がいましたら何が書かれているのか教えてください。喜びます。

余談ですが、「The Headsman」という映画でこの拷問具が登場したらしいです。とても気になるので、機会があれば見ようと思います。

最新情報をチェックしよう!

拷問解説の最新記事8件